富士見産婦人科病院事件(保健師助産師看護師法違反)

JUGEMテーマ:整体

 

普段の記事では判例を取り上げた際、その解説も行っていたのですが、一つの判例から複数の論点があったり、一つの論点を解説するのに複数の判例を紹介する必要もあります。

なので今回は判例紹介だけにとどめます。

 

今回の判決文は富士見産婦人科病院事件という、診療報酬目当てでする必要のない、臓器摘出手術を行った事件の刑事裁判の一つ(保健師助産師看護師法違反事件)です。

 

病院の理事長の妻であり、医師でもある院長が、無資格者に「診療の補助(看護師業務)」を行わせていた事件の東京高裁の控訴審判決です。

 

この院長、この判決を不服として最高裁に上告しましたが、1990年3月8日に上告棄却で確定しております。
おそらく三行決定なせいか、最高裁の決定は判例集には載っておりません。

画像は一葉社「富士見産婦人科病院事件―私たちの30年のたたかい」の149頁より。

 

 

この判決で当業界に関係するのはA(理事長)の超音波検査Bの縫合糸の結紮です。

Aの超音波検査に関してはA自体が医師法違反にも問われて有罪となっております。

 

Bに関してはこの部分が重要です。

 

"本件各筋膜の縫合糸の結紮としてBがしていたことは、比較的単純な作業であるといえないでもないが、

患者の腹部の手術創に直接手を触れたうえ、細密な縫合状況についての視認結果と指先の感触に基づき、自らの判断を加えながら、縫合糸を結ぶことによって創口を閉鎖することであり、それ自体として患者の身体や健康状態に重大な危害を及ぼすおそれがあるのはもとより、微妙な判断作用を伴う機械的とは到底いえないものであって、医師による監督監視の適否を論ずるまでもなく、無資格者が医師の助手として行うことができる行為の範囲をはるかに超えているといわなければならない。"

 

この裁判は医師の指示の下で無資格者に行わせることができる行為を争っていますが、医師の指示監督の下でも行えない行為を、無資格者が独自判断で行えば医師法第17条違反になります。

 

では判決本文です。強調、改行などは筆者による。

所論というのは被告人の主張です。裁判所の判断とは違います。

原判決というのは地裁判決です。

またこの当時は看護師ではなく、看護婦でした。


平成元年 2月23日東京高裁判決 昭和63(う)746号 判例タイムズ691号152頁
保健婦助産婦看護婦法違反被告事件 裁判結果 棄却

 

主文
 本件控訴を棄却する。

 

理由
 本件控訴の趣意は、弁護士西田健提出の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官提出の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。


 控訴趣意第一(理由不備の主張)について

 

 所論は、要するに、原判決は、「無資格者を医師や法定の診療補助者の助手として使用するのであれば格別」と判示して、医師が助手として使用するのであれば、法定の診療補助者としての資格がない者でも診療補助業務に従事させることができるとしながら、そのような助手がどのような診療補助業務をすることが許されるのか、また、どうして右資格を必要としないのかについて、納得できる判断を示していないから、原判決には判決に理由を付さない違法がある、というのである。

 

 そこで、所論の当否について検討すると、原判決が「量刑の理由」中で、所論指摘のような摘示をしていることは明らかである。

しかし、原判決は、「罪となるべき事実」において、医師である被告人が、法定の診療補助者の資格を有しないA(以下「A」という。)、B(以下「B」という。)及びC(以下「C」という。)とそれぞれ共謀の上、右のAら三名において原判決別表(一)ないし(三)記載の各行為に及び、いずれも被告人の診療の補助をなすことを業とした旨を認定摘示するとともに、「争点についての判断」において、Aら三名が適法に医師の手足として診療に関与したにすぎないとの弁護人の主張に対し、Aら三名の本件各診療補助行為について事実関係を詳細に検討して、右主張が理由のないものであることを説示しているにとどまるところ、それ以上に、一般に医師が診療を行うに際し、無資格者を助手として使用できる場合のあることについて、ことさらその理由を説明したり、そのような助手の使用できる場合を具体的に明示するなどしなければならないとすべき理由は見出し難い。

 

 したがって、原判決に所論のような理由不備の違法があるとはいえず、論旨は理由がない。

 

 控訴趣意第二(理由そごの主張)について

 

 所論は、要するに、原判決は、

 

(一)「罪となるべき事実」において、本件各診療補助行為が被告人の指示に基づいて行われたと認定する一方、「争点についての判断」においては、いずれも医師の指揮監督の下に行われたものではない旨を判示し、

 

(二)本件各診療補助行為のうち超音波検査(被告人が病院長をしていた原判示富士見産婦人科病院においては、「ME検査」と呼ばれ、原判決も「ME検査」と略称している。)及び心電図検査については、「それ自体が人体に害を及ぼすものでないこと、実際に本件により患者において事故が発生しなかったこと」を認定する一方、他方において、それらが無資格者によって行われたという理由で、患者の診断、治療に重大な結果を招来し、衛生上危害を生ずるおそれがあった旨を判示しているから、これら各点において、原判決にはその理由にくいちがいがある、というのである。

 

 そこで、所論の点について順次検討を加える。

 

 一 原判決は、「罪となるべき事実」第一において、被告人がAに対し各患者について超音波検査を指示した旨、同第三において、被告人がCに対し各患者について心電図検査を指示した旨をそれぞれ認定摘示するとともに、「争点についての判断」第二・四・2において、担当医師(主治医、以下同じ。)の被告人や超音波主任管理医師がAに対し指揮監督をしていたとはいえない旨、同第四・四・2において、担当医師の被告人や心電図管理担当医師がCに対し指揮監督をしていたとはいえない旨をそれぞれ摘示している(なお、原判決は、「罪となるべき事実」第二において、被告人がBに対し各患者の筋膜の縫合糸の結紮を指示した旨を認定摘示しているが、「争点についての判断」中には、Bが医師の指揮監督を受けなかったとするような摘示はなく、この点についての所論は前提において失当である。)。

 

 しかしながら、原判決が「罪なるべき事実」中で、被告人がAやCに対し指示したというのは、これに基づきAらが超音波検査又は心電図検査を実施することになる、被告人とAらとの共謀の過程ないしは犯行の経過を示す文言にすぎないことが判文上優に看取でき、このことは、原判決が「争点についての判断」において、担当医師の指示は単なる超音波検査又は心電図検査の依頼にとどまると説示していることからも明らかである。これに対し、原判決が「争点についての判断」中で、医師がAらに対し指揮監督をしなかったというのは、Aらが医師の手足として各検査に関与したにすぎないとの弁護人の主張を検討するに際し、医師が自己の手足として使ったといえるほど、Aらを指揮したり監督したりしていなかった旨を認定して、右主張が理由のないことを説明するために述べたものであると認められる。

 

 そうすると、被告人がAらに対し指示したとの摘示と、医師がAらに対し指揮監督をしなかったとの摘示との間に格別のくいちがいはない。

 

 

 二 原判決は、「争点についての判断」第一・三・4において、所論のように、「本件ME検査及び心電図検査それ自体が人体に害を及ぼすものでないこと」などを摘示しているが、これは単に、超音波検査や心電図検査がそれ自体としては、エックス線照射のように人の身体や健康状態に対し直接に危害を加えるおそれを包含しておらず、現にそのような危害を発生させたことも認められないとの趣旨をいうだけのものである。

 

 他方、原判決は、「争点についての判断」第二・四・2において、超音波検査について、「本来医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為である。」と摘示し、同第四・四・1において、心電図検査について、「少くとも看護婦、臨床検査技師等診療補助者としての資格を有するものが、医師の指示あるいは指導監督の下に行うのでなければ、患者の診断・治療に重大な結果を生ずるおそれがあることは明らかである。」と摘示しているが、これらは、その前後の記載をも考慮すると、検査過程における機器取扱いの過誤、不適切等によるものを含め、検査が的確に行われるのでなければ、結果として診断の正確性ないしは治療の適正を損ない、患者の身体や健康状態に悪影響をもたらすことになるとの趣旨をいうものと解されるから、前記の「検査それ自体が人体に害を及ぼすものでないこと」などをいう摘示との間に、くいちがいがあるとはいえない。

 

 したがって、原判決に所論のような理由のそごはなく、論旨は理由がない。

 

 

 控訴趣意第三(法令適用の誤りの主張)について

 

 所論は、要するに、

 

(一)保健婦助産婦看護婦法(以下「保助看法」という。)四三条一項一号による処罰の対象は、人の健康に害を及ぼすおそれのある診療補助業務に限られるべきであるところ(あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法所定の無資格者による医業類似行為の禁止に関する最高裁判所昭和三五年一月二七日大法廷判決・刑集一四巻一号三三頁参照)、本件各診療補助行為はいずれも患者に全く危害を与えるおそれのないものであり、

 

(二)医師は、その指揮監督の下に、患者に対し危険を生ずるおそれのない事項について、無資格者を使って診療の補助をさせることが許されているところ(大審院大正二年一二月一八日第二刑事部判決・刑録一九輯一四五七頁、大審院昭和一一年一一月六日第四刑事部判決・刑集一五巻一三七八頁参照)、本件各診療補助行為はこれに当たるから、いずれにしても、被告人を有罪とする原判決には法令の解釈適用を誤った違法がある、というのである。

 

 

 そこで、所論の点について順次検討を加える。

 

 

 一 原判決は、被告人がA、B、Cとそれぞれ共謀のうえ、いずれも法定の除外事由がないのに、
看護士、准看護士の免許を受けていないAにおいて、超音波検査を実施し
看護婦、准看護婦の免許を受けていないBにおいて、筋膜の縫合糸の結紮を行い
同じくCにおいて、心電図検査を実施し

それぞれ診療の補助をなすことを業とした旨の事実を認定し、
これが刑法六〇条、保助看法四三条一項一号、三一条一項、三二条(A関係で更に同法六〇条一項)に該当するとしているところ、保助看法四三条一項一号には、所定の違反行為により、人の健康に害を及ぼすおそれのあったことを要するとの趣旨の文言はないのみならず、例えば看護婦又は准看護婦、看護士又は准看護士の場合、その業務が傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世話又は診療の補助をなすことを内容とするものであることからもうかがれるように、同号所定の違反行為は、いずれも医療ないしは公衆衛生にかかわり、これを放置するときは、多くの場合人の健康によくない結果をもたらす危険性のあるものであって、法がそのような行為を一般的に禁止しようとしたと考えることにも、相当の根拠があることなどからすると、同号の罪は、所定の違反行為があれば直ちに成立し、その行為により現実に人の健康に害を及ぼすおそれのあったことを要しないと解される。もっとも、人の健康に害を及ぼすおそれのない場合には、右違反行為は違法性を欠いて、これを罪とするのが相当でないこともありえないではないが、被告人の関与した本件各診療補助行為は、のちに述べるとおり、いずれも法の予想する人の健康に対する危険を発生させるおそれがないものであったとは到底認められないものでもある。

 

 

 二 医師は、診療を行うに当たり、常に看護婦、准看護婦、看護士、准看護士、その他の法定の診療補助者しか使えないものと断ずることはできず、各種の医療用機器を使用できるのと同様、人を、その資格の有無にかかわらず、自己の助手として適法に使うことができる場合のあることは否定し難い。

しかし、法が一定の有資格者に限って診療の補助を業とすることを許していることからすると(保助看法五条、六条、三一条、三二条、六〇条、臨床検査技師、衛生検査技師等に関する法律二〇条の二、理学療法士及び作業療法士法一五条、視能訓練士法一七条等)、医師が無資格者を助手として使える診療の範囲は、おのずから狭く限定されざるをえず、いわば医師の手足としてその監督監視の下に、医師の目が現実に届く限度の場所で、患者に危害の及ぶことがなく、かつ、判断作用を加える余地に乏しい機械的な作業を行わせる程度にとどめられるべきものと解される。

 

 そして、被告人の関与した本件各診療補助行為は、のちに述べるとおり、いずれも右の医師の助手として行うことができる範囲を明らかに超えるものであったから、これを適法視する余地はない。

 してみると、被告人の本件各所為を保助看法四三条一項一号に問擬した原判決に、所論のような法令の解釈適用を誤った違法はなく、論旨は理由がない。

 

 控訴趣意第四(事実誤認の主張)について

 

 所論は、要するに、保助看法四三条一項一号(三一条一項、三二条)の罪が成立するには、無資格者が業として行う診療補助行為が、人の健康に害を及ぼすおそれのあるものであることを要するとともに、無資格者も、医師の指導監督の下にその助手として、右法条に触れることなく診療の補助をすることができるとの見解の下に、
(一)本件おいてAがした超音波検査及びCがした心電図検査は、いずれも患者の健康に害を及ぼすおそれが全くないうえ、医師の指導監督の下にその助手として適法に行ったものであり、
(二)Bがした筋膜の縫合糸の結紮は、医師の指導監督の下に、その面前でその手足としてした機械的な手作業であって、適法に医師の助手として行ったものであるから、被告人を有罪とした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。

 

 そこで検討すると、所論の点についての当裁判所の法解釈は前記のとおりであって、所論の法解釈は必ずしも全面的には採りえないものであるが、当裁判所の見解に立っても、およそ無資格者のする診療補助行為が、その具体的な内容や程度の如何にかかわらず、常に直ちに罪となるものとまではいえないので、関係証拠に基づき、所論のいう事実関係について更に考察することとする。

 

 一 超音波検査(原判示第一の事実)について

 

  1 超音波検査は、超音波を患者の身体に投射し、その反射波を検出し、体内組織の音響的性質の分布をブラウン管上に表示させることにより、体内組織の位置、状態、異常の有無等を読み取ろうとするものであるが、Aは、数種の超音波検査装置(アロカ株式会社販売のアロカSSD−一二〇E形超音波診断装置、同アロカUIR−一形超音波影像録画再生装置、同アロカSSD−二五〇形電子走査超音波診断装置、旭メディカル株式会社販売のシステムUS−一〇一電子スキャン超音波診断装置、同オクトソン全自動超音波診断装置等)を使用して右検査を行い、患者の生殖器の位置や状態、妊娠の有無、その正常性や胎児の状態、子宮筋腫、卵巣嚢腫、胞状奇胎の各病状等について、ブラウン管上の影像をポラロイドカメラで撮影し、その写真のコピーの余白に自己が観察し判定した所見や病名を記入するなどし、これを担当医師の診断、治療の参考に供していたことが明らかである。

 

 そうすると、Aがしていた本件超音波検査には、一般に医療用電気機器を人の身体に使用することに伴う電気的あるいは衛生的な危険も考えられないではないが、それはともかく、超音波検査は、機器を操作しつつ、人の身体やその異常、疾病等について、解剖学、生理学、病理学等の医学的な知識及び経験に基づき、ブラウン管上の影像を観察し、その意味するところを判定するものであって、無資格者が検査を実施する場合には、誤った観察や判定をする危険が常に多分に存在し、ひいては検査結果を医師の診断、治療の用に供することによって、その診断等を誤らせる危険性があるものといわざるをえない。

 

 したがって、Aが無資格でしていた本件超音波検査は、人の健康に害を及ぼすおそれのあるものであったと認められ、これに違法性がないということはできない。

 

  2 Aは、担当医師からの連絡票又はME指示表(昭和五三年一二月ころから後者となる。以下、合わせて「ME指示表」という。)が回されてくると、その患者について、女性秘書を手伝わせるだけで、自ら機器を操作して超音波検査を行い、その結果を前記のように取りまとめており、本件各超音波検査に際し、担当医師である被告人が立ち会ったうえ、Aに対し指導監督をしたようなことはなかったと認められる(原審証人Aは、被告人は難しい患者の場合に立ち会うなどして、少なくとも自己の患者の二割位について立ち会っていた旨供述しているが、この供述は、Aの検察官に対する昭和五五年九月二一日付供述調書謄本の記載に反するばかりでなく、被告人の捜査段階ないし原審公判における供述にもそわず、到底措信の限りではない。)。

 

 また、超音波検査については、被告人によって超音波主任管理医師が任命されていたが、当初同管理医師であったDは、事後にまとめてME指示表にサインするだけで、ほとんどAの超音波検査に立ち会っておらず、昭和五四年六月中旬ころから同管理医師となったEは、ME検査室に勤務してAの超音波検査に立ち会ってはいたが、Aに対し指導監督といえるようなことはしておらず(これに反する原審証人A、同F、同G、同Hらの各供述は、原審証人D、同E、同I、同Jらの各供述等に照らして、措信することができない。)、殊に本件各超音波検査に際し、D、E両医師がAに対し指導監督をしたとうかがわせる証拠は見当たらない。

 

 そうすると、Aは、本件各超音波検査に際し、担当医師の被告人から特定の患者について超音波検査を行うよう指示されると、その後は被告人や超音波主任管理医師らの指導監督を受けることなく、自己が主体となってその患者に超音波検査を実施していたと認められるから、Aが被告人ら医師の助手といえるような立場になかったことに疑問の余地はない。

 

 二 心電図検査(原判示第三の事実)について

 

  1 心電図検査は、心電計を使用し、患者に四肢誘導電極及び胸部誘導電極を取り付け、これによって心臓の収縮に伴う活動電位の時間的変動をグラフ(心電図)に記録し、その波形の時間的関係の異常、大きさや形の変化等から心臓の機能状態、殊に疾患の有無や状況等を読み取ろうとするものであるところ、本件各心電図検査に際しCが使用していた五五二A心電図自動診断装置(フクダエム・イー工業株式会社販売)は、検査結果を心電図に記録するほか、これをコンピュータで解析し、ミネソタコードと称する分類方法により、正常又はほぼ正常、異常の疑い、わずか異常、異常、病的等に判定して、その結果を自動的に紙片に打ち出してくる心電図計であることが明らかである。

 

 しかし、Cがしていた本件心電図検査には、超音波検査と同様、一般に医療用電気機器を人の身体に使用することに伴う電気的あるいは衛生的な危険も考えられないではないが、それはともかく、所論にもかかわらず、心電波形に交流が混入すると誤診の原因となるなど、機器の操作方法いかんによっては、誤った検査結果の出るおそれがあり(昭和六三年押第二五九号の二五〇「ミネソタコードによる心電図のコンピュータ解析」三四頁)、また、負荷心電図を作成するときは、患者にあらかじめ一定の運動をさせる必要があるほか、およそ検査の実施に際しては、患者の心身が検査に適した状態にあることを見極めてするのでなければ、同様誤った検査結果の出るおそれがあり(右「ミネソタコードによる心電図のコンピュータ解析」一四頁ないし二五頁、前同押号の二五一「五五二A心電図自動診断装置取扱説明書」四頁、二二頁ないし二四頁)、ひいては右のような検査結果を提供されることによって、医師が患者に対する診断、治療を誤る危険性があると認められる。

 

 したがって、Cが無資格でしていた本件心電図検査は、人の健康に害を及ぼすおそれのあるものであって、これに違法性がないということはできない。

 

  2 Cは、担当医師から、カルテの医師指示録欄に「術前A」と記載したり、特殊検査伝票の心電図検査の項に印をつけるなどして、心電図検査を指示されると、心電図検査室に患者を入れ、自ら一人で機器を操作するなどして検査を行い、機器から得られた心電図や判定結果を印字した紙片を用紙に貼付し、これを心電図管理担当医師を介して担当医師に引き渡しており、被告人を含めて担当医師が右検査に立ち会ったことは全くなく、同管理担当医師であったE、Iがそれぞれ任命当初の僅かな期間右検査に立ち会ったことがあるとはいえ、本件前のCが機器の取扱いに習熟するまでの間を除き、立会時にもCに対し指導監督といえるほどのことはしていないだけでなく、右医師らが本件各心電図検査に立ち会いCを指導監督したことをうかがわせるに足りる証拠はない。

 

 そうすると、Cは、本件各心電図検査に際し、担当医師の被告人から特定の患者について心電図検査の依頼を受けると、その後は被告人や心電図管理担当医師らの指導監督を受けることなく、自己が主体となってその患者に心電図検査を実施していたと認められるから、Cが被告人ら医師の助手といえるような立場になかったことは明らかである。

 

 三 筋膜の縫合糸の結紮(原判示第二の事実)について

 

 Bがしていた本件各筋膜の縫合糸の結紮の状況をみると、そのほとんどの場合において、被告人は、自己のする開腹手術に際し、あらかじめ手術予定表によりスタッフの一員として、自己の手術室退室後の第一助手にBを指名しておき、手術当日術者として手術を行い、腹膜の縫合を終えた段階で手術室から引き上げ、その後は、それまで第一助手をしていた医師が術者となって、筋肉、筋膜、表皮の各縫合にかかるが、右医師が結節縫合の方法により筋膜を創口に直角に一針ずつ縫合して行くとき、Bが第一助手としてその縫合の都度縫合糸を一本ずつ結紮していたことが明らかである。

もっとも、原判決別表(二)記載の番号4の場合は、終始被告人が術者、Bが第一助手として手術を行い、被告人が縫合した筋膜の縫合糸をBが結紮したものであると認められる(被告人の司法警察員に対する昭和五五年一一月七日付供述調書(記録第八冊八七八丁以下のもの)、前同押号の一七九)。

 

 そうすると、本件各筋膜の縫合糸の結紮としてBがしていたことは、比較的単純な作業であるといえないでもないが、患者の腹部の手術創に直接手を触れたうえ、細密な縫合状況についての視認結果と指先の感触に基づき、自らの判断を加えながら、縫合糸を結ぶことによって創口を閉鎖することであり、それ自体として患者の身体や健康状態に重大な危害を及ぼすおそれがあるのはもとより、微妙な判断作用を伴う機械的とは到底いえないものであって、医師による監督監視の適否を論ずるまでもなく、無資格者が医師の助手として行うことができる行為の範囲をはるかに超えているといわなければならない。

 

 所論は、術者のI医師がBを十分監督していたので、患者の身体や健康状態に対し危害が及ぶおそれはなく、現に事故が発生したこともない旨を強調しているが、前記の原判決別表(二)記載の番号4の場合を含め、同番号3、10、12、17、19、21、22、24、38の際における術者は、同医師ではなかったとうかがわれるだけでなく(前同押号の一七八、一八五、一八七、一九二、一九四、一九六、一九七、一九九、二一三)、開腹手術における筋膜の縫合糸の結紮は前記のようなものであり、これに患者の身体や健康状態に対する危害発生のおそれがあることは、疑いを入れる余地がない。

 

 四 以上のとおりであるから、被告人と共謀のうえAら三名においてした本件各診療補助行為を罪とならないとすべき理由はなく、原判決の事実の認定に誤認とすべきところはない。論旨は理由がない。(なお、原判決本文二頁八行目に「所沢市二丁目」とあるのは「所沢市西所沢二丁目」に、同四頁二行目に「○○子」とあるのは「○×子」に、同五頁八行目に「整備課」とあるのは「医療整備課」に、同五頁九行目に「一一日」とあるのは「一七日」に、同五頁一〇行目及び一二行目に「捜査事項」とあるのは「捜査関係事項」に、同七頁一一行目に「第一一項」とあるのは「第一二項」に、同七頁一三行目に「第八」とあるのは「第一、第八」に、同八頁一行目に「供述調書」とあるのは「供述調書謄本」に、同九頁四行目に「三一通」とあるのは「三二通」に、同一〇頁一〇行目に「三〇綴」とあるのは「三一綴」に、同一〇頁一五行目に「二五日」とあるのは「一五日」に、同三六頁一〇行目に「執力医」とあるのは「執刀医」に、同五七頁番号15の患者氏名欄に「村山」とあるのは「村上」に、同六三頁番号73の患者生年月日欄に「七月」とあるのは「六月」に、同七九頁番号10及び同八一頁番号17の各患者生年月日欄に「二五年」とあるのは「二六年」にそれぞれ訂正されるべきである。)

 

 よって、刑訴法三九六条により、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官柳瀬麓 〆枷輯渦E聴孫亜〆枷輯碓羮縋道)


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